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31.憲法第9条を棄てるとき、日本人は限りなく堕落していく!

 (文中の〔  〕内は文引用者が補足するために追記したものです。また、太字も文引用者が強調のためにそうしたものです。)

「拠り所としての理想」という根源  田中優子

 「現行の憲法は、日本が占領されている時代に制定され、既に六〇年近くがたちました。新しい時代にふさわしい憲法の在り方についての議論が、積極的に行われています」――これは安倍首相の所信表明演説の一節である。私はこのような発言を聞くたびに、何か日本がとても小さなものになった気がする。それはこの文脈のなかの「憲法」を、「私の家」とか「この町の下水道」とか「村の公民館」と入れ替えても少しもおかしくないからだ。これを「倭小化(わいしょうか)」というのだろう。理想というものを古い、新しい、誰が作った、という次元に引きずり下ろしてしまう人々が、この世にはいるのである、日本の功利主義はここまで来た。そういう思いを抱きながら過ごしている目の前に、この本〔(『憲法第9条を世界遺産に』大田光・中沢新一著/集英社新書)〕が登場した。・・・・・・

 ・・・・・・本書には九条を表現するキーワードがいくつも出てくる。「奇蹟」「珍品」「無茶」「面白い」「常軌を逸している」「正気を失っている」「瞬間の輝きとともに世界に出たもの」「二度と取り消しがきかないもの」「先住民族の影響を受けたアメリカの建国精神と日本の合作」「人間の限界を超えようとする挑戦」「たった一つ日本に残された夢であり理想であり拠り所」「ドリームタイム(根源の場所)」等々。これらは今まで憲法九条について語られてきたものと異なっている。メツセージは「憲法九条はふつうでない」ということだ。ふつうの国になりたいような国にはもったいない憲法だと思える。

 面白いと思ったのは中沢新一の次の言葉だ。「憲法九条は修道院みたいなものなんですね。……たとえ無茶な場所であっても、地上にそういう場所がある、ということを、いつも人々に知らせている……普通に考えたらありえないものが、村はずれの丘の上に建ってるというだけで、人の心は堕落しないでいられる」――私も常々、憲法九条問題は人間の堕落について考えさせる問題ではないか、と思っていた。時代の変化に従い、社会の実情に合わせて理想を改変しよう、という考えを「堕落」という。憲法九条問題は、人が堕落しないでいられるその仕組みを、社会が失ったところに立ち上がってきた。憲法九条の存在は唯一の俗を越えるものとして、私たちの生活の中に措定できるものなのかも知れない。だとするとこれすらも失ってしまったとき、日本人の精神はどうなるのだろうか?・・・・・・

    (田中優子さんは法政大学教授

 毎日新聞 06/10/15(日)朝刊『憲法第9条を世界遺産に』書評

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