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27.教育基本法改変は教育のクーデター!

《対談》これは「教育のクーデター」だ

             尾木直樹/西原博史

 尾木 与党案全文を読んでまず感じたのは、「夢も希望も抱けない基本法だな」ということでした。私が現在の教育基本法で一番輝いていると思うのは、前文の「この(憲法の)理想の実現は、根本において教育の力にまつべきものである」という文言です。つまり、ここには、歴史の後継者である次世代への信頼が、限りなく大きく、力強く脈打っている。改定案にはそういう夢やロマンが全然なくて、逆に次世代、子どもたちへの不信に満ちています。しかも子どもだけではなく、地域や家庭までがんじがらめに統制しようとしています。

 具体的に五つ、申し上げたい。

 一つは、ここに示されている転換は、単に一八○度曲がるというような転換(ターン)ではなく、「教育におけるクーデター」といえるほど抜き打ち的で質的な大転換である、ということです。これをてこに社会全体を変えようとしている

 二つは、冒頭の感想とも関わりますが、子どもを信頼に基づいて育てるのではなく、大人の下僕化しようとしているということ。これは、子ども観の大後退であり、大人と子どものインタラクティブな関係性の崩壊とさえ呼べるものです。

 三つは、家庭にまでも国家の手が伸びようとしていること。たとえ正しくても家庭教育の指針など、国家が口出しすべき領域ではない。これは原理原則です。こんな形で改定されたら、親子関係は大きなプレッシャーを受けて、上下関係に変質させられる。この一年ぐらいの少年の事件をみると、親殺し、兄弟殺しなどが増えていますが、そういう傾向が一層深刻になっていくのではないでしょうか。

 四つ目は、これでは学校が国の「ロボット製造工場」になり下ってしまうことです。新たに五つの「教育の目標」が掲げられ、徳目が二〇項目も入っている。これらが全部、「態度」を求めていて、もし態度が教育の目標になってしまったらこれは日本の学校の教師の本能ですが必ず成果を「評価」しようとします。そうすると東京都のように「君が代」をどの程度大きな声量で歌ったか声量調査をするとか、口をちゃんと開けていたかデジカメ撮影するというようなことが起きる。現場は真面目で杓子定規で動きますから、「教育なき管理主義」が学校を覆い尽くすだろうと思います。これはもう教育ではありません。

 最後ですが、教師が変質させられてしまうことです。人格を完成させるサポーターの役割だったのが、これからは人材育成の「ロポットエ場」の法令執行人になってしまう。

西原 尾木さんのご感想には、私も同感です。あえて法を専門とする私の見方を付け加えれば、「実にうまくつくられた法案」といえます。言葉の上では現行の教育基本法と同じものが残っていますが、それが完全に換骨奪胎され、逆の意味になっているのです。

 たとえば第一条「教育の目的」の中に、現行法でいちばん重要だった「人格の完成」が維持されましたが、いままでは一人ひとりが自分なりの人格を掴み取っていくという意味だったのに、法案においては、国が定めた道徳が身に付いて初めて一人前の人格をもった存在になる、目標を国が定めて、そこに向かって子どもたちが到達していくという発想になっているのです。あるいは、現行一〇条の「教育は、不当な支配に服することなく」も、言葉としては残りましたが、これまでは国家権力や教育行政の介入を恐れていたからこそ、それらの不当な支配を受けず、国民に対する直接の責任において行なわれるとされていた。ところが改定案では、国民の多数派が政府を作るのだから、教育の内容は時の政府が定めていく、そこから逸脱したり邪魔が入るようなことは、不当な支配としてはね除けるという意味になっています。完全な逆転です。

 尾木さんがいわれたことと重なりますが、子ども観を転換して、“操作する対象”として子どもを見ています。もっといえば、いまの政府の考える都合のいい国民をどうつくるか、どう意識を洗脳するか、そういう方向で、学校教育あるいは全ての国内の教育と呼ばれるプロセスを位置づけようとしているのです。そして、改定案で言う「教育」というのは、二条の「教育目標」の実現のことですから、今後日本のあらゆる所で行われる教育的な行為は、この二条の教育目標に役に立つ部分は応援するけれども、ちょっとでも違うことがあれば、教育の妨害として潰していくということになります。これは家庭の中でも、地域や私立学校においてもそうなります。そういう意味では学校の中だけではなく、社会全体を再編成し、根本的に引っ繰り返すところまで射程が及んでいる、まさに「クーデター」だと思います。(後略)

 (おぎ・なおき…1947年生まれ。教育評論家、法政大学キャリアデザイン学部教授。著書『思春期の危機をどう見るか』『子どもの危機をどう見るか』<以上、岩波新書>)

 (にしはら・ひろし…1958年生まれ。早稲田大学社会科学部教授。著書『良心の自由と子どもたち』<岩波新書>、『学校が「愛国心」を教えるとき』<日本評論社>ほか)

    世界(岩波書店) 06年7月号

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